大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1341号 判決

原告

三好正太

代理人

杉谷義文

杉谷喜代

被告

サンキユータクシー株式会社

代理人

越智比古市

主文

一、被告は原告に対し金四、〇四〇、〇〇〇円および内金三、八四〇、〇〇〇円に対する昭和四二年八月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

五、ただし、被告において原告に対し金二、七〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

実第一、申立

(原告)

一、被告は原告に対し金一二、九五五、〇〇〇円および内金一一、七五五、〇〇〇円に対する昭和四二年八月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。との判決。

第二、請求の原因

一、本件交通事故の発生

とき 昭和四二年八月二三日午前一時五分ごろ

ところ 大阪市港区市岡元町一丁目四五番地先路上

事故車 普通乗用自動車(大五け二二〇二号)

右運転者 訴外川口力

受傷者 原告(事故車に同乗)

態様 西進してきた事故車が市電の安全地帯に接触し、その衝撃で原告が車外に転落した。

二、被告の責任原因

(一)  被告は事故車を所有し(他に四三台の営業車を保有している)、九十余名の従業員を使用してタクシー業を営んでいるところ、本件事故の前日ごろ、事故車を車庫内に特に管理人をおかず何人も自由に出入りし得る状態で、しかもエンジンキーを差し込んだまま放置していたため、訴外川口が事故車を無断で持ち出し、自己の計算でタクシーとして使用し、本件事故当時、社名が表示してあるところから被告のタクシーと誤信した原告を客として堺市から運送していたものである。

(二)  自賠法に基く責任

(1) 自賠法の立法趣旨である危険責任、報償責任の原理に照すと、同法三条の「自己のため自動車を運行の用に供する者」とは抽象的、一般的にこのような地位にある者を指称し、たまたま第三者が自動車を無断運転して事故を惹起した場合であつても右第三者との身分関係その他により、なお抽象的、一般的に右地位にあると認められるときは、右地位に抽象的、一般的に伴う危険の具体化および自動車運行による利益享受の過程において他人に加えた損害と評価して、右事故による損害の賠償責任を免れないものである。また、同法条にいう「その運行による」とは、「自動車の運行によつて」の意味であるから、当該自動車の運転者との間に雇傭関係ないし、身分関係が存在する必要はなく、自動車の日常の運行状況、管理状況等から、事故当時の自動車の運行が客観的、外形的に自動車のためにする運行と認められれば前記責任要件を充たしているものといわねばならない。そして、自動車事故による損害賠償制度を指導する衡平の理念に基けば、保有者の過失により自動車の無断運転がなされた場合には、右過失の存在は運転者との雇傭ないし身分関係の存在と択一的な同等の帰責事由(要素)になるものというべきである。

(2) 被告は前記の如く事故車の所有者であるから、抽象的、一般的に同車を支配しその利益の帰属する地位にあつたところ、本件事故当時、事故車には「サンキユータクシー」と被告名が表示されていて川口はタクシー営業として原告を乗車させていたものであるから川口による事故車の運行は客観的、外形的に被告のためにする運行と認められるばかりでなく、被告代表者ないしその被用者である管理責任者の過失により川口が事故車を無断運転するに至つたのである。しかも事故車には右の如く被告名が大書してあつたから、川口において、事故車を他に転売しあるいは自己の乗用として長期にわたり使用することは困難で、従つて小遣いかせぎのためタクシーとして暫時使用した後に乗り捨てるなり返還するなりする意思であつたものと認めるべきで、せいぜい使用窃盗ともいい得る程度であり、また、被告は民法の規定により、窃取された時から二年間は事故車の所有権を失わないし、事故車はタクシー車であるから占有の回収は極めて容易であつたものである。

以上の如く、被告は本件事故当時事故車に対する運行供用者たる地位を失うことなく保持していたのであるから自賠法三条の責任主体に該当する。

(三)  民法上の責任

本件事故は、被告会社代表者およびその被用者たる管理責任者に業務執行中前記(一)の如き事故車管理上の過失があつたため、川口が事故車を無断で持ち出して運転し本件現場に差しかかつた際、進路前方に市電の安全地帯があつたにも拘らず、漫然と前方に対する注意を怠つて制限速度を越える速度で進行したため発生したものである。そして、通常、自動車の保管が十分でない場合第三者がこれを無断運転することがあり得、その結果この様な第三者が自動車運転上の過失により他人の身体、財産等を侵害することは十分に予見し得るところであるから、川口の事故車運転による本件交通事故の発生は、被告代表者ないし被用者の事故車管理上の過失と相当な因果関係にある。

よつて、被告は民法七〇九条(四四条)もしくは同法七一五条、ならびに同法七一九条により原告に対する賠償責任を免れない。

(四)  選択的主張

以上の如く、被告は自賠法もしくは民法による賠償責任を負担するところ、原告はこれらの責任原因を選択的に主張する。

〈中略〉

第三、被告の答弁および主張

一、請求原因一の事実中、原告主張の日時ごろ川口が事故車を運転していたことは認めるが、その余の事実は不知。

二、請求原因二の事実中、被告が事故車を所有し他に四三台の営業車を保有し、九十余人の従業員を使用してタクシー業を営んでいることは認めるが、被告代表者ないし被用者に事故車保管上の過失があつたとの事実は否認し、その余の事実はすべて不知。

三、請求原因三の事実はすべて不知。

四、被告の主張

(一)  被告は事故車を川口に窃取されたものであつて同車に対する支配を有しなかつた。即ち、被告は本件事故の前日、別紙見取図の如き車庫の正門から最も奥の位置に事故車を保管していたところ、川口は自動車専門の窃盗犯人であり、事故前日の午後一一時ごろ右被告方車庫に裏口から侵入して事故車を窃取して事故車に対する被告の支配を排除し、本件事故当時同車を自己のために運行の用に供していたものであつて、被告は事故車に対する支配権を喪失していた。

なお、警察における本件事故の捜査の過程においても、事故車の管理状況から被告の被用者以外の第三者の無断運転によるものとは予想もできず、従つて、被告の盗難届も受理されなかつたもので、事故後七七日目に川口が別件のトラツクの窃盗犯人として逮捕されて取調中、川口の自白により始めて同人が事故車を窃取したことが判明したのである。

(二)  被告には事故車管理上の過失はなかつた。

被告は右の如く事故車を車庫の正門から最も奥に保管していたもので、また事故車にエンジンキーを差し込んだままにしていたのであるが、これは、当日台風一八号が接近する旨の警報が発せられていたから万一浸水等が生じた場合に至急自動車を避難させるために待機させていたのであるから、被告には事故車管理上の過失は何らなかつた。

(三)  仮りに事故車にエンジンキーを差し込んでいたことが事故車管理上の過失と認められるとしても、川口は自動車専門の常習窃盗犯であるから、事故車にエンジンキーを差し込んでいたことは川口の窃取と何ら因果関係はない。

また、自動車保管上の過失があつたとしても、本件のような第三者の無断運転による事故の発生と右過失との間には、相当因果関係がない。

(三)  被告は原告に対し休業補償として九〇、〇〇〇円を弁済した。

第四、証拠〈略〉

理由

一、本件事故の発生ならびに被告の責任原因

(一)  請求原因一、二の事実中、昭和四二年八月二三日午前一時五分ごろ訴外川口が事故車を運転していたこと、および被告が事故車を所有し(他に四三台の営業車を保有している)、九十余人の従業員を使用してタクシー業を営んでいることは当事者間に争いがない。

(二)  次に、〈証拠〉を総合すれば左のとおり認められる。

(1)  被告は肩書地に事務所兼車庫を有し、その敷地はブロツク塀で囲まれており、南北約58.5メートル、東西約四三メートルの長方形で、(西側約一二メートルは社宅予定地)、北側に正門があり幅員約一五メートルの東西に通じる道路に面し、南側に二つの裏門があつて幅員約六メートルの東西に通じる道路に面しており、裏門にはいずれも扉があるが表門には扉の設備はなく、構内には無蓋および有蓋の各車庫があるが有蓋車庫にはトタン屋根を支柱で支持しているだけで隔壁や扉の設備はなく、その他構内の概略は別紙見取図のとおりである。(但し以上のうち距離関係の表示については、乙第一号証が必ずしも正確な縮尺図ではないと窺われる面があるため完全に正確であることを保し難く、大略の関係を示すに止まる。)

(2)  昭和四二年八月二二日、被告の従業員で事故車の当番乗務員であつた野田隆が無断で欠勤したが、被告の被用者である営業担当責任者はこれを全く確認せず、同日朝から有蓋車庫内の別紙見取図中事故車の駐車地点附近にエンジンキーを差し込みドアの鍵もかけないまま事故車を放置しており、運転日誌も出庫時に営業担当責任者から運転手に直接手渡すべきであるのに事故車内に置いたままで、なお裏門の一つには鍵をかけていなかつた。そして被告の営業担当責任者は野田が欠勤したことを本件交通事故の発生後に始めて知つた。

(3)  本件事故より約三週間前の昭和四二年八月一日ごろ被告方構内から本件同様エンジンキーを差し込んだままにしておいたタクシー車(事故車とは別)が第三者川口力に盗取されたが、その後においても被告はその保管する車輛の盗難防止のため特に措置を講じなかつた。

(4)  川口は被告とは雇傭関係等特別の関係はないが、昭和四二年七月末まで勤めていた店の寮が被告方の近くにあつたことや、配達に訪れたことから被告方を知るに至つた。

川口は運転資格を有しなかつたが以前自衛隊員であつたころ自動車の運転技術を習得していたので、右(3)のとおり昭和四二年八月一日午前二時ごろ被告方構内にエンジンキーを差し込んだまま駐車してあつたタクシー車を無断で乗り出し、数時間タクシー営業をして大阪市西淀川区内に乗り捨てた。そして同年八月二二日午後一一時ごろ、再びタクシー営業をして小遣いを取得しようと企て、被告方構内に鍵のかかつていなかつた裏門から入つたところ事務所構内に誰も見当らず、折から前記の地点は事故車と他に一台のタクシー車が並べて駐車してあつたが、事故車のドアに鍵がかかつておらずエンジンキーも差し込まれたままであつたのでこれに乗り込み、裏門から乗り出した。

当時構内事務所棟の奥の二名の警備員がいたが川口が事故車を乗り出したことに全く気付かなかつた。

(5)  なお、同年八月二一日午後九時大阪管区気象台より台風第一八号接近のため風雨波浪注意報が発令されたが、右注意報は翌二二日午後一〇時三〇分に解除されたものである。

(6)  〈反証排斥〉

(三)  本件事故発生の状況および川口の過失

〈証拠〉によれば左のとおり認められる。

(1)  大阪市港区市岡元町一丁目四五番地先路上(以下本件現場という)附近は、市電軌道のある幅員約二二メートル(車道部分)の平担で見透しのよい東西路と幅員約8.5メートルの南北路の交差点で、交差点には信号機および横断歩道があり、東西路の交差点東側直前に西行市電の市岡元町二丁目停留所の島状地帯がある。東西路は中央に幅員6.1メートルの市電軌道敷があり、西行車道はコンクリートで舗装され、三の車輛通行帯が設けられていて、第一通行帯の幅員は2.8メートル、第二および第三通行帯の幅員はいずれも2.6メートルでその南側の歩道の幅員は5.5メートルであり、指定最高速度は毎時四〇キロメートル以下で、夜間もやや明るい。

(2)  川口は、昭和四二年八月二三日午前〇時半ごろ堺市内で原告とその同僚を客として事故車に乗車させ(原告は右後部座席に乗車した)、尼崎市内に運送するため同日午前一時五分ごろ本件東西路の西行車道第三通行帯の市電軌道敷寄りを西進し本件交差点の約一〇〇メートル手前に至つたころ対面信号機が青色に変つたのでそのまま進行し、本件市電安全地帯の四〇メートル余り手前に接近した時原告らが話しかけてきたので左後方に振り向いたまま約三二メートル進行し、再び前方を向いた時市電の安全地帯が目前に迫つているのを発見し、衝突の危険を感じて突嗟に左転把の措置を採つたが及ばず事故車の右前部を市電の安全地帯に接触させ、その衝撃で事故車の右後部ドアを開かせるとともに約二四メートル左前方に進行した地点で原告を車外に転落させて後記の如き傷害を負わせた。

(3)  川口の過失

川口は事故車を運転して本件現場附近に差しかかつた際、進路前方に市電の安全地帯があつたにも拘らず、左後方に振り向き、前方に対する注意を怠たつて進行したという過失があつた。

(四)  被告の責任原因

自動車の如く、取扱方法の如何によつては、世上走る凶器と呼ばれるように、これを操縦するには技術の習得を要ししかも相当の重量があつて高速度で進行し得る危険物を所有し管理する者は、その保管を厳重にする等して未然に危険の発生を防止すベき注意義務があるというべきである。

しかるところ、右(一)(二)に認定の事実に基けば、被告の被用者である車輛運行管理責任者としては、特に事故車を無断運転される約一ケ月弱前にもエンジンキーを差し込んだまま構内に駐車させていたタクシーを第三者(本件事故と同一人)に無断運転されて持ち出されたのであるから、特にこの点に思いを致し業務の執行として事故車を保管するに際し、他人に無断運転され、ひいてはこれによる交通事故が惹起され得ることがあることも予想し、この様な事態が発生しないよう必ずエンジンキーを外し、ドアの鍵もかけ、構内への出入口に扉を設けならびに施錠する等その他必要な措置を採るべきであつたにも拘らず、これらの措置、施策を講ぜず極めて杜撰な管理をなし、事故車にエンジンキーを差し込んだままそのドアならびに一方の裏門の鍵をかけずに放置していたという極めて重大な過失があつたものと認められる。また、右の状況にある以上警備等についても万全を期すべきであつたにも拘らず、前記の如く川口が事故車を被告から乗り出した時、被告の被用者である二名の警備員が構内事務所棟内に居たのであるが、同人らは本件交通事故発生の通知を受けるまで川口が事故車を乗り出したことすら知らなかつたのであるから、右警備員らにおいて業務執行中に警備を怠つた重大な過失があるといわなければならない。被告はキーを差し込んだままにしたのは台風に備え避難を容易にするためであつたと主張するが、注意報は既に解除されており、且右認定の各事実に照せば被告主張のような待機姿勢にあつたものとは到底認められず、また従業員がその心構えにあつたものとも認め難いので右主張は採用しない。

なお、〈証拠〉によれば川口は事故車の外にも数回にわたり数社のタクシー会社のタクシー車を無断で運転してタクシー営業をし、また積荷(野菜)を窃取するためトラツクを窃取したことが認められるけれども、〈証拠〉によれば、川口は自動車のエンジン点火装置を針金等で連結する方法を知らず、右いずれの場合も車輛にエンジンキーが差し込まれたままになつていたのを奇貨として運転したことが認められるので右の如く川口が他にも無断運転をしていた事実を以てしても未だ前認定を覆えずに足りず、この点に関する被告の主張は採用の由なきものである。

次に、本件交通事故は右(三)の如き運転免許を有しない川口の事故車運転上の過失によつて発生したものであり、そして自動車管理者において自動車を容易に持出し運転し得る状態に放置しておくことは、何人かによつてその自動車を無断で運転され、かつ当該無断運転者が無免許者である場合は勿論のこと、そうでない場合であつても、現在の大阪市ならびにその周辺地域における様ないわば危険な道路交通事情のもとにあつては無断運転者が第三者に対し自動車運転上の過失により損害を与えることがあり得ることは何人にとつても相当の注意をすれば容易に予測し得るものと認められ、従つてこれを排除すべきものとする特段の事情の認められない本件にあつては、被告の被用者である運行管理責任者および警備員の事故車保管上の前記過失と、川口が事故車を無断運転中その過失により生じさせた原告の損害との間には相当因果関係があるものと認めるべきであるから、以上によれば被告は民法七一五条一項により本件事故に基く損害についてこれを賠償すべき義務を負うものといわなければならない。

なお、自動車を所有する者は特段の事情のない限り運行供用者としての責任を負うべきものと解されるところ、前示のとおり杜撰極まりない管理、そしてその結果川口により外観上の被告営業車に利用され、事故車には被告名が大書されており、川口は数時間タクシーとして使用後事故車を乗り捨てる意思であつた事実などに照らせば、このような事情の下では未だここにいう特段の事情に当らないものというべく、従つて被告は自賠法三条による責任をも免れることはできない。

三、損害の発生

(一)  傷害および後遺症の内容ならびに治療の経過

〈証拠〉によれば、原告は本件事故により、右膝蓋骨骨折、第四腰椎右横突起骨折、頸椎捻挫の傷害を受け、その後昭和四二年一二月ごろ約一〇日間および昭和四三年八月一一日から同年九月二五日まで自宅療養をしていた外は事故後現在まで入院治療を続け、その間五回にわたり膝部の手術を受け、現在右膝関節は屈曲が五〇度(健側は三〇度)、運動範囲が一二五度(同一五〇度)、右足関節は背屈が九五度(健側七〇度)、運動範囲が七五度(同一〇〇度)に各制限(その他の運動は概ね異常がない)されており膝関節部に歩行痛があつて跛行し、レントゲン撮影像によれば膝蓋骨の一部が欠除しており、腰部は前屈時および捻転時に疼痛が生じ、以上の各症状は後遺症として残存するものであるが今後なお昭和四五年一一月二〇日過ぎまでリハビリテーシヨンを主な内容とした治療を要することが、また頸椎捻挫のため頭痛、めまい、吐気等の自覚症状が存するがこれら各症状は特段の器質的変化に基くものではなく極めて軽度のものであることが、なお右下腿部は筋萎縮しているが運動不足によるものであることが、それぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  逸失利益

原告は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

(1)  職業

乙種一等航海士の資格(昭和四〇年一月取得)を有し、鷲田陽一郎方において汽船練誉丸に船長として乗り組んでいた。

(2)  収入

所得税等必要経費を控除しても一ケ月五五、〇〇〇円を下らない。

(3)  休業期間(受傷の治療のためのもの)

原告主張のとおり。

(4)  就労可能年数

本件事故当時の年令 二五才(昭和一六年九月一三日生)

原告はその余命の範囲内で昭和四三年二月二三日以降六三才までなお三七年間就労し得るものと認められる。

(5)  労働能力、収入の減少ないし喪失

(イ) 原告は、前記の如く後遺症ならびにその治療のため昭和四三年二月二三日以降も同四五年一一月二二日まで二年九ケ月間は就労することができないものと認められるが、就労不能による減収額は原告主張の一ケ月四二、〇〇〇円の範囲で認容する。

(ロ) 昭和四五年一一月二三日以降の労働能力の減少については、原告の後遺症状は右膝および足関節の機能に障害を残し、右膝関節および腰部に疼痛の神経症状を残すといい得る程度のものと認められるべきところ、労働基準法および同法施行規則別表第二によれば、一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残す場合は身体障害一二級七号に、局部に神経症状を残す場合は身体障害一四級九号にそれぞれ該当すること、ならびに原告の前記職業に照らして考えると、原告は就労可能年数中今後なお一〇年に亘り、その労働能力の約一八パーセントを失い一ケ月一〇、〇〇〇円を下らない減収を生ずるものと推認することが相当である。

(6)  逸失利益額  合計二、四三〇、〇〇〇円

(ロ) 事故後昭和四三年二月二二日まで六ケ月間の休業期間中の逸失利益の事故時における現価は三二〇、〇〇〇円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、月毎年金現価率による。ただし一〇、〇〇〇円以下切捨。以下同じ)。

(算式)(月間収入)(ホフマン係数)

55,000×5.91≒320,000円

(ロ) 昭和四三年二月二三日から同四五年一一月二二日まで二年九ケ月(三三ケ月)間の逸失利益の事故時における現価は一、二六〇、〇〇〇円。

(算式)(月間減収額)(三九ケ月間のホフマン係数 六ケ月間のホフマン係数)42,000×(36.06−5.91)≒1,260,000円

(ハ) 昭和四五年一一月二三日から同五五年一一月二二日まで一〇年(一二〇ケ月)間の事故時における現価は八五〇、〇〇〇円。

(算式)(月間減収額)(一五九ケ月間のホフマン係数 三九ケ月間のホフマン係数)

10,000×(121.79−36.06)≒850,000円

(三)  精神的損害(慰謝料)

原告の肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は一、五〇〇、〇〇〇円を相当とする。

右算定につき特記すべき事実は左のとおり。

(1)  前認定の如き傷害および後遺症の部位・程度および治療の経過。

(2)  〈証拠〉によれば原告は未だ独身であることが認められるので、原告は将来結婚に際し右後遺症状のため不利益な影響を受けるものと予想される。

(3)  〈反証排斥〉

(四)  弁護士費用

〈証拠〉を総合すると、法律的素養のない原告は、被告が賠償義務の存在を争い損害賠償を拒否したので、大阪弁護士会に所属する本訴代理人に対し本訴の提起と追行を委任し、着手金を支払いおよび勝訴の場合に成功報酬を支払う旨約したことが認められる。そこで、右認定の事実および本件事案の難易、審理の経過、請求額、認容すべき前記の損害額ならびに当裁判所に顕著な日本弁護士連合会および大阪弁護士会報酬規定に照らすと、原告が被告に対し弁護士費用として賠償を求め得べき額は二〇〇、〇〇〇円と認めることが相当である。

四、弁済

被告が原告に対し休業補償として九〇、〇〇〇円を弁済したことは当事者間に争いがない。

五、結論

以上のとおり、被告は原告に対し、右三(二)ないし(四)の合計金一三〇、〇〇〇円から右四を控除した残額金四、〇四〇、〇〇〇円および右三(四)を除く内金三、八四〇、〇〇〇円に対する本件不法行為の翌日である昭和四二年八月二四日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべく、従つて原告の本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。(寺本嘉弘 喜多村治雄 大喜多啓光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例